千花咲技研:Review

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225系のモーター音の個体差について

今回は電車の走行音について掘り下げる回です。

225系、というよりはJR西日本の主電動機「WMT106」シリーズについてですが、実はモーター音が大まかに3種類存在します。

3種類のモーター音、と言いますと、やはり東急8500系が一部では有名ですね。

(くろまる様@ku6maru71より拝借)

また、主に製造メーカー・製造時期による差異によって同じ形式でもモーター音に個体差が生じる例は多々あるようです。

個人的に観測した車種だと、

  • 大阪メトロ66系(製造メーカーと思われる、2〜3種類?)

  • 阪神9300系(年次改良と思われる、2種類)

  • 近鉄8000系列・2410系列・12200系や30000系などの直流モーター車(年次改良と思われる、大まかに2種類)

  • 313系(製造メーカーと思われる、少なくとも2種類以上)

  • 521系(特に3次車以降に音が静かな個体が紛れる、2〜3種類?)

(これらも追々ネタにしていきたいところです)

その他にも、細かな個体差(共振したり変な音だったり)で分類できることもありますが、この記事内では基本的に大まかな傾向としてはっきり出るものをモーター音の個体差として扱います。

WMT106の話

WMT106シリーズについて軽く解説を。

2005年登場の321系より展開が始まった「0.5Mシステム」の仕様に基づく、新しい標準型主電動機になります。

先代のWMT102シリーズからは速度センサが廃されており、軽保守化と信頼性向上、また捻出されたスペースの活用による出力向上を実現しています。加えて、(駆動装置の改良も含めて)静粛性も大幅に向上しました。

冷却方式は特に変わらず自己通風形で、耐雪性能確保のためダクトで冷却風を取り込む方式です。

現在の搭載車種は、321系・225系・287系・227系(0番代)の各車両になります。

判別方法について

さて、冒頭に述べた通り、WMT106は大まかに3種類の音に分類できます。

個人的に付けている呼称ですが、それぞれ低音高音①高音②としています。これらはそのまま音の特徴を表しています。

なおこの差異の要因については不明です。 今のところ製造メーカーによるものと推定していますが、正確な供給元情報が不明な上に、製造を明言している企業は東洋電機製造[1]しか確認できていません。

これらモーター音の差は基本的に車両単位、つまり同じ編成であっても1両単位で音の違いが発生します。また、時期によって違うタイプに入れ替わっていることがあります。このせいで調査がとにかく大変です

台車内での混在は、1C2Mセンサレスベクトル制御[2]という事もあるので、まずないものと考えています。

実際の判別方法、要するに聞き分けの方法ですが、

まず低音と高音の判別は非常に容易です。同期モードに変調し、そのまま50km/h程度まで加速すれば十分同定できます。低音車が非常に特徴的であるが故ですね。

問題は高音①と②の判別で、これらは80〜100km/hくらいの走行音を観測できないと、音の違いを見出すことが困難です。音量も小さいので、周囲の環境や録音機材のノイズによってかき消されやすく、そもそも違いに気付きにくい要因となっています。

よって、基本的に低音と高音の違いを何となく意識する程度で良いと思います。高音①と②の差は小さいので、気付いたら気にしてみるくらいで十分でしょう。

当記事では、確実な判別と音の違いの明示を目的として、主に225系新快速の走行音を扱います。また、状況に応じて音源の差し替えを行う事がありますのでご了承ください。

低音

3種類の中では、最も特徴的なタイプと言えるでしょう。

同期モードへの変調後、加速と共に電圧最大の1パルスモード[3]へと移行していくのですが、その際に一段低い低音が大きく響くのが特徴となります。速度で言えば大体40〜60km/hくらいで聞こえてくる、なんとなく低い音がそれです。

なお、減速時も同様に1パルスモード時に低音が目立つ傾向です。

また、細かな違いとして120km/hを超えてくる(回転数にして大体5200rpm程度)と、12倍音[4]の音程が微かに聞こえてくるのも、他とは明確に異なる点です。 46倍音も最高速付近ではあまり目立たず、70km/h前後で比較的目立つ印象です。

代表的な車両は、モハ225-308(I4編成)・クモハ225-101(U4編成)・クモハ225-106(U6編成)が挙げられるでしょうか。割とバラけてはいますが、東洋VVVFは大体このタイプになる印象が強いです。

高音①

低音タイプと異なり、逆に最も特徴がないタイプです。

シンプルに46倍音だけが目立つモーター音となっています。強いてポイントを挙げるなら、120km/h以上の最高速付近で割と強烈に高音が響くのが特徴的かもしれません。それも聞き比べたらちょっと差があるように感じる程度でしかないです。

個人的には、単調なこのタイプは気に障る要素が無くて一番好きだったりします。

代表的な車両は、何故かこのタイプではあまり発見できていません。上の音源にあるモハ225-404(I8編成)くらいですね。

余談ですが、どうやら3次車グループにおいては東洋電機製造による主電動機の納入実績がない[5]ようです。加えて、3次車の実車では現状高音①タイプを発見する事ができていません。

となると、高音①タイプは東洋電機製造製の個体である、という仮説が立つ事になります。当然ながら確証はありませんが…

高音②

こちらは中々に曲者のタイプです。

高音①との違いはというと、大体70〜110km/h辺りで46倍音よりも少し低い音程(38-40倍音?)の高音が混じってきます。高速域でちょっと違和感のあるような和音が出ているように感じられるかと思います。

この高音の聞こえ具合が車両や車内の位置によって結構差があり、聞き取りづらい事が非常に多いです。このために録音音源による判別が難しくなりやすいのが悩みどころです。

代表的な車両は、クモハ225-102(U5編成)、112(U8編成)、113(U9編成)、114(U10編成)辺りを挙げましょう。全体的に東芝VVVFの車両に多い傾向を感じます。

あとがき

さて、3種類あるとは言ったものの、供給元や年次改良など不明な点は多く、今後調査が進むことによって分類が変わる可能性はまだあります。その時は少し迷惑をかける事になるかもしれませんが、着々と調査は進めて解明に努めて参りますので、今のところは多めに見ていただけるとありがたいです。

WMT106シリーズを搭載する車両の調査結果につきましては、電動車1両ごとに記録して順次リストにまとめています。

Googleドライブにてリストをアップロードしておりますので、是非ともご利用ください。リストは時折アップデートいたします。 drive.google.com

今後もこのように、鉄道走行音に関する「ひとつの面白味」を提供するスタイルで活動していきます。どうぞご贔屓の程よろしくお願いいたします。

脚注

[1]…東洋電機技報第112号、製品紹介「西日本旅客鉄道株式会社321系車両用制御装置」。加えて毎年の総集編に記載の納入実績より。

[2]…1台のインバータで1台車分、つまり2台の主電動機をまとめて制御する(1 Controler 2 Moter)方式で、速度センサを用いずにモータ電流を測定して速度情報を得る。精度を確保するため、まとめて制御されるモータは同じ特性である事が望ましい。

[3]…PWMインバータにおいて、相電圧半周期あたり1つだけパルスを出力するモード。相電圧の周期をほぼ全てスイッチオンの時間に充てるため、出力できる電圧はこのパルスモードが最大となる。

[4]…〇〇倍音、モーターの毎秒回転数(rpmではなくrps)の整数倍の音程(単位はHz)と定義。例えば駆動歯数(歯車装置の小歯車の歯数)もモーター基準の倍音の一つである。

[5]…東洋電機技報第143号、2020年総集編「交通事業部編」にて。225系100番代へ駆動装置やパンタグラフの納入は明言されているが、制御装置(状況証拠から明白)や主電動機に関しては記載がない。