興味深い電機システムの採用事例が見られたので、なんとなくわかることを解説したいと思います。
今回取り上げるのは、東武80000系に採用された車上バッテリシステムです。
概要はこちら→ https://www.global.toshiba/jp/news/infrastructure/2023/03/news-20230310-01.html (東芝ニュースリリース「東武鉄道の新型車両にリチウムイオン二次電池SCiB™を組み合わせた当社の車上バッテリシステムが採用」)
この記事の概要に沿って解説して行きます。では読み解いて行きましょう。
システムの概要
「リチウムイオン二次電池SCiB™と車両用電源システム(SIV)を組合わせた車上バッテリシステム」とあります。
SIVとは、従来の車両から採用されている、空調やコンプレッサー、主要機器類の制御に用いる低圧電源を生み出す装置になります。この部分に真新しい要素は特にないですね。
ポイントはリチウムイオン二次電池、つまり充電可能かつ大容量なリチウムイオンバッテリーの採用にあると見られます。
少し下に行くと、システムの主な機能が2つ記述されていますね。
「列車がブレーキを掛けた際に発生する回生エネルギーを蓄電池に蓄え、空調などの補助電力の一部として活用することで、省エネ運転・CO2削減に貢献」
「装置故障等の非常時には走行に必要なブレーキ用コンプレッサ等への電源の供給を行い、冗長性を確保」
…うーん、正直具体性に欠ける説明ですが、更に下のシステム回路図と照らし合わせる事で、なんとなくその形態が想像できますね。ちょっと引用させて頂きましょう。

まず1つ目の機能「回生エネルギーを蓄電池に蓄え、空調などの補助電力の一部として活用」ですが、これは回生ブレーキによって架線電圧が上昇するのを検知して、SIV装置がより多くの電力を取り込み、バッテリーの充電に用いる機能だと考えられます。
そして、充電された電力の使い道として、機能説明の後半にある通り補助電力の一部として活用、つまり普段はSIVが担う電源装置としての働きをアシストしたり、更には2つ目の機能「非常時には走行に必要なブレーキ用コンプレッサ等への電源の供給」、要はSIVの故障などで制御電源が得られなくなった場合でも、加速やブレーキを行って車両基地まで回送できるように、車両を走行させるための非常電源として機能する事が考えられますね。
電力の流れを見て行きましょう。
まず、ESインバータ装置というものがあります。ESは何の略かよくわかりませんが、Energy Storage(エネルギー貯蔵)かもしれませんね。主な役割はリチウムイオンバッテリーの充放電制御になります。当然ながら、バッテリーを回路に直接繋げるのは非常に危険であるため、このような電力変換装置が必要になります。そして、このESインバータは架線と直接繋がっておらず、SIV装置の出力部で電力のやり取りを行うようです。更には、SIV装置と「制御・保護協調」の線で繋がっており、SIVの動作状況に合わせて連動する事ができるようです。
車両が回生ブレーキを行うと、架線電圧が上昇します。通常は同じき電区間(路線の一定区間ごとに仕切られた電気系統)に居る他の車両が加速する事で、上がった分の電圧を消費(下げに行く)して、電力のつり合いを取っています。しかし、回生ブレーキのタイミングも一定ではないので、時には架線電圧が上昇し過ぎてしまい、電気機器の絶縁破壊による事故を防ぐために回生ブレーキを絞らざるを得なくなってしまう事もあります。この場合、回生に頼れない分のブレーキ力不足は空気ブレーキの摩擦力で補う事になるため、本来活用できるはずの走行エネルギーを回収できないという事態が生じていました。
しかし、このシステムではSIV装置がバッテリーに充電可能な分の電力を上乗せして架線から取り込む事で、回生ブレーキによって上昇した架線電圧を消費する事ができます。そしてESインバータと連動し、上乗せした分の電力を更に取り込んでバッテリーへの充電を行います。つまり、いつもなら捨てていたはずの走行エネルギーをバッテリーに充電する事で、他の用途に電力を再利用して有効活用することが期待できます。
ESインバータはバッテリーからの放電度合いを制御する事も可能です。これにより、通常はSIVから供給する三相交流440V(空調装置やコンプレッサーの電源)をバッテリーから供給し、SIVが架線から取り込む電力を減らす事で省エネルギーを実現できます。バッテリーの容量がいっぱいで充電する余裕がない時は、こちらの動作をメインに行うと考えられます。
また、SIVが故障した際にも力を発揮します。SIVが故障すると、走行に必要なVVVF装置やコンプレッサーといった機器類が動作するための電力が、架線から得られなくなってしまいます。車両全体の制御を統括するコンピュータシステムも止まってしまうでしょう。こうなると、車両はその場から動けず立ち往生してしまい、進路を塞いで路線の運行にも支障をきたします。対処にきわめて手間の掛かる、最悪の事態と言えるでしょう。
この問題点は広く認知されており、当然車両側での対策が行われています。まず、非常用のバッテリー(主に鉛蓄電池)や空気タンクを装備して、ブレーキを行うために必要な最低限の機器が動作するようにしてあります。更に、編成内にSIV装置を複数搭載する事で、どれかがダウンしても運行を継続する事が可能なシステムを構成している例も多くあります。
しかし、非常用の鉛蓄電池や空気タンクの容量は少々心許ないので、VVVFインバータを動かしてモーターを回し、車両基地まで回送を行うのは難しいです。また、SIV装置を複数搭載するのはバックアップ面では完璧ですが、周辺回路の増加やシステムの複雑化による重量・コストの増大など、課題がないわけではありません。加えて、信頼性向上によって故障率が低下すると、コストが掛かる割に活用の場面が少ない、といった事態にもなり得ます。
その点、リチウムイオンバッテリーによる非常電源システムはとてもバランスが良いと考えられます。普段はエネルギー効率の向上という重要な役割を果たしつつ、SIV装置が故障した際はバッテリーからSIVと同じ電源を供給する事ができます。容量も鉛蓄電池と比べて断然余裕があり、VVVFやコンプレッサーを稼働させて遠く離れた車両基地へと引き上げる事も現実的になります。SIV装置の複数搭載と同様に、輸送障害を防止するのに大きく寄与し、かつより投資効率に優れたシステムだという考察ができますね。
実車の状況と編成組み替えの考察
さて、三菱電機が開発した同期リラクタンスモーター駆動システムと共に、目玉となる技術として搭載された東芝の車上バッテリシステムですが、実際に出てきた80000系を観察したところ、以下のような考察が浮かび上がりました。
80000系は25編成を新製し、8000系・10000系列を置き換える予定ですが、この計画には野田線車両の5両編成への統一という施策も盛り込まれているのが大きなポイントです。
具体的には、野田線用として現在18編成在籍している60000系から付随車を1両抜き取り、新製した80000系の4両編成に組み込む作業を行います。既存車を6両から5両に短縮して、その際に余った経年の少ない車両を有効活用するという施策です。最終的に野田線は、80000系25本のうち18本が60000系組込、7本が全車新製、そして60000系18本の計43本の陣容となります。
80000系の新製に当たり、東芝が受注した車上バッテリシステムはなんと43両分だそうです。これは80000系の25編成で割り切れない数なので、編成内への分散搭載ではなさそうです。それどころか最終的な野田線の編成数と一致しており、80000系と同じシステムを60000系に追加搭載する可能性が浮上しました。こうなると、60000系の編成短縮は思った以上に大掛かりな工事となる事が予想されますね。
そして2024年12月、何と60000系を近畿車輛まで甲種輸送し、5両編成化のための改造を行うという情報が入り、実際に第1編成が近畿車両まで輸送され、入場しました。わざわざ車輛メーカーに依頼する程の工事となる訳で、これは大きな話題を呼びました。
それから程なくして、製造メーカーの近畿車輛から、80000系の第一陣(全車新製)が出場しました。この際に床下機器を観察したところ、何と60000系と全く同じ外観のSIV装置が、編成のモハ84500形(2号車)に1台だけ搭載されていたのです。
ここから5両編成化の過程において、一つの考察が浮かび上がります。まず、60000系には編成内にSIV装置が2台載っていますが、80000系では1台のみで、それも60000系と同じ型式である可能性が高いです。そして、80000系に組み込む車両は付随車になると明言されていますが、その当事車(?)となる60000系のサハ64600形にはSIV装置とコンプレッサーが載っています。
つまり、60000系からは車両だけでなく、電気機器も流用する可能性があります。SIV装置が同じ型式であれば、車上バッテリシステムを構成する上で大きな支障はないはずです。また、編成形態を揃えに行くのであれば、サハ64600形からSIV装置を取り外し、別のメーカーが製造した車体であるモハ84500形に再度取り付ける事になるでしょうが、こちらもモノが同じという事で、特に問題ないでしょう。大きな電気機器を載せ替える工事となれば必然的に大掛かりな作業になるので、車輛メーカーに依頼する意義も見出せますね。
そして、編成内のSIV装置が1台となり、そこに43両分発注した車上バッテリシステムを搭載すれば、野田線の全編成で同じ低圧電源システムを構成できる事になり、先述した予想と辻褄が合います。当然ながら、SIV装置の製造台数が減少するので、コスト削減にも繋がります。
なお、コンプレッサーについては手掛かりがないですが、こちらは全車新製の80000系において異なる型式のコンプレッサーがモハ82500形に1台搭載しているのを確認できたので、60000系の5両編成に移設するのではないかと予想します。
以上、車両はおろか、電気機器の製造台数をも削減するかもしれないという考察でした。
おまけ
実は、ここまで説明した車上バッテリシステムと非常に類似した電機システムが存在しています。
それが、阪急8040形に搭載された車両用蓄電池システム。
東芝レビューVol.77 No2(2022年2月)で取り上げられています。こちらもシステム構成図を引用しましょう。

具体的な搭載車両は明言がありませんが、システム構成図にはPMSMの搭載が見られる事から、機器更新の行われた8042編成で間違いないでしょう。
やはりリチウムイオンバッテリーを採用しているようで、構成は東武80000系のものと非常によく似ています。が、決定的な違いとして蓄電池と架線を直接接続する接触器が取り付けられています。
先述した通り、回路に直接バッテリーを接続するのは非常に危険です。ましてや、架線の1500Vと定格電圧が異なるであろう車上バッテリー(400〜600V程度と思われる)を直接繋ぐ事など、あってはならないはずです。
これは説明にヒントがあり、「蓄電した電力による架線停電時の自力走行を可能にして、乗客の安全性向上を図る」とあります。つまり、架線に電気が来ていない時でも、バッテリーの電力を利用して自力走行できるという事です。これは80000系のシステムにはない機能になります。
この機能を実現しているのが、バッテリーと架線のラインを繋ぐ接触器です。流れとしては、何らかの異常で架線から電力を取り込めなくなった時に、パンタグラフを降下させて架線からの電源を遮断します。その上で接触器を繋ぎ、架線の時と同じ経路を通ってバッテリーからVVVF装置に電力を供給し、モーターを回して走行するものと思われます。
主な用途としては、停電により橋梁上など避難が困難な区間で立ち往生してしまった時に、そこから車両を避難が容易な場所まで移動させるといった使い方になるでしょうか。これなら確かに乗客の安全性向上に寄与するシステムといえますね。
以上、おまけのシステム解説でした。






